こんにちは、Gorian91(@gorian91)です。
昨年末に「あなたの病気、発信してみませんか?」の企画を読んでくれた方から連絡があり、インタビューをしてきました。
連絡をいただいたのは、なんと、私と同じベッカー型の筋ジストロフィーのM.Sさん。
今年4月に就職を控えて時間があるということで、はるばる名古屋から大阪まで会いに来てくれました。
幼少期の頃の話から、就職に関すること、病気の遺伝や筋肉の話に至るまで、幅広く話をしてくれました。
特に、病気については、ご自身でも知識を蓄えて理解を深めているとのことで、自分よりも遥かに詳しくて、逆に勉強をさせてもらいました。
筋ジストロフィーは、遺伝性の筋疾患
病気のことをご存知ない方もいると思うので、まずは筋ジストロフィーという病気について簡単に説明します。
筋ジストロフィー(きんジストロフィー)とは、筋線維の破壊・変性(筋壊死)と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性筋疾患の総称である。
発症年齢や遺伝形式、臨床的経過等から様々な病型に分類される。その内、最も頻度の高いのはデュシェンヌ型である。
筋ジストロフィー – Wikipediaより引用しました。
何やら難しい言葉で書かれていますが、要約すると、少しずつ筋肉の力が弱くなり筋肉がやせていく遺伝性の病気の総称です。
特徴によって、たくさんの種類がありますが、特に重要とされているのが、デュシェンヌ型、ベッカー型、肢帯型、、顔面肩甲上腕型の4つです。
一般的な筋ジストロフィーのイメージは、最も発現頻度が高く、重症であるデュシェンヌ型。
デュシェンヌ型は、筋ジストロフィーの中でも最も病気の進行が早く、筋肉が破壊されていき、大多数が20代前後で亡くなります。
井上雄彦さんの漫画「リアル」で出てくるタイガースのヤマが、車椅子に乗った姿で描かれ、数年後には、寝たきりに近い状態として描かれています。
描写を見る限り、ヤマはデュシェンヌ型の筋ジストロフィーだと考えられます。
一方、筋ジストロフィーの中でも、最も軽症な型とされているのが、ベッカー型の筋ジストロフィーです。
このタイプは、筋力低下はあるもののデュシェンヌ型に比べると進行が遅く、中には60代で歩ける方もいます。
同じ筋ジストロフィーでも、生涯車椅子に乗らない人もいるくらい、症状が異なる病気なので、必要以上に恐れられ、誤解されている病気でもあります。
前置きが長くなりましたが、ベッカー型筋ジストロフィーの当事者の方はもちろん、そのご家族の方にとって参考になる情報が出ているので、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。
それではどうぞ!
病気であることはわかっても、自覚症状はなく、生活に困ることはなかった幼少期
Gorian91:病気が見つかったのは何歳くらいの時ですか?
M.Sさん:小学校3年生くらいですね。
診断してくださった先生方を含め、周囲の人に恵まれていたので、労ってもらいながら生きてきました。
良い意味では労ってもらっていた、悪くいえば過保護ではあったんですけどねw
その頃は病気の詳しいことは知らされていなくて、半年に一回病院に行くという感じで、経過観察だったんですけど、自覚症状が出てきたタイミングでちょうど先生が変わって、いろいろと調べてみたらと先生に言われて、病気のことを知ったんです。
Gorian91:なるほど。ちなみに、本格的に自覚症状が出てきたのはいつくらいの時ですか?
M.Sさん:22歳の時なので、今からちょうど2、3年前ですね。
Gorian91:つい最近なんですね。
M.Sさん:つい最近です。
その頃までは、体は全然平気で、片道5キロくらいの道のりを自転車で走っていたし、階段も普通に登れてました。
大学に入ったあたりから、階段を登るのが辛いなぁと感じ始めたんですが、最初は体力が落ちたのかなと勘違いをして、病気のせいだとは思っていませんでした。
Gorian91:それだけ普通に生活できていたということですよね。
生活で困ることはなかったんでしょうか。
M.Sさん:生活で困ることはなかったです。
小学校から中学校に上がるときに、仲の良かった友達と学校が分かれたんですけど、小学校で病気のことを知っていた友達がほとんどいなくなって、病気のことを知っている友人がいない状態になりました。
なので、気を使ってもらわずに中学生活を送れそうだなぁと。
Gorian91:なるほど!
病気のことを知っている人がいると、変なイメージが定着してしまって、気を使われてしまいそうですよね。
M.Sさん:中学校では色々ありました。
山道で歩けなくなって、おんぶして帰ってもらったりとかw
Gorian91:うわ、それ一緒です。それって林間学校ですよね?
M.Sさん:そう、林間学校です。途中で足が痛くなって歩けなくなっちゃって。
おぶってくれたんですよ。その友達とは今も交流があります。
過保護な周囲に変化をもたらした、目標に向かって努力して勝ち取る経験
M.Sさん:小学校では労ってもらっていたんですが、中学校に入ってからは自分ひとりでできないといけない。
運動がダメなことはわかってたので、勉強を頑張って、県内で2番目の進学校に進学しました。
Gorian91:それって公立高校ですか?
ぼくの場合、体育の内申点が悪くて、高校のランクを下げないといけなかったので、得意科目だけで入れる私立を選択したんですが、体育の成績はどうだったんでしょう?
M.Sさん:体育のテストを頑張って、5段階でなんとか3の成績を取ったんです。
ずっと2だったんですけど、最後は3にあげてくれたんですよ。
体育の身体能力のところは低かったんですけど、あとの全部が良ければ、2にはならないだろうと。
授業中に手をあげたりとか、ノートをびっしり書いたりとか、質問しにいったりとか。
体育以外の5教科も、死ぬほど頑張りました。
目標に向かって努力して勝ち取るという経験ができたと思います。
このあたりから、過保護っていうのはちょっとなくなりました。
Gorian91:ひとつの成功体験になったということですね。
ちなみに、勉強以外では部活動はされてたんでしょうか。
M.Sさん:中学校の頃は、運動部で弓道をやってました。
弓道だったら足を使わないじゃないですか。
愛知県の刈谷市出身で、そこの中学校は弓道が発展してて。
親の勧めで弓道だったらできるんじゃないか、担任の先生からは、やってだめだったらやめればいいしって言われたので、やってみたらできたんですよね。
Gorian91:足を使わないといっても、結構筋力いりますよね。
特に上半身の力がいりそうな気がします。
M.Sさん:全然問題なかったですね。
やろうと思えば、今もできますよ。
今弱っているのは、太ももの裏側の筋肉だけです。
人によって症状はそれぞれなのだと思います。
ちなみに、弓道は高校でも続けて、県大会で勝っちゃったこともありましたw
Gorian91:それはすごい。笑
弓道をされていたということなんですが、高校でも体育の授業は受けてたんですか?
M.Sさん:体育はできることをやってました。
できないことはできないと言いなさい、でも、できることはやりなさいと言われていました。
そもそも、体育ができないっていう発想がなかったですね。
普通の人と混ざってやりたいっていう見栄もありました。
サッカーとかは、端っこのボールが来ないような場所にいたり、バスケでボールが来たら、すぐにパスしたりしてましたけど。笑
Gorian91:なるほど。
M.Sさん:大学でも弓道をやりたかったんですけど、大学の弓道部は全国大会常連校で、朝から晩まで練習、休み時間も練習、終電ギリギリまで練習というレベルでした。
自分じゃ無理だと思って、アーチェリー部に入りました。
大学生活はそれにのめり込んでいましたね。
アーチェリーで使う洋弓というのは、自分で調整したり、改造できるんですよ。
力だけじゃなくて、頭脳プレーで的を射抜くこともできる。
弓道と違って、アーチェリーは的に当てるのは絶対で、点数を競う競技。
弓道とは違った醍醐味があるんですよ。
当たる、当たらないではなく、いかにして真ん中に当てるか、という競技なんですよね。
そこに惹かれました。
あと、アーチェリーの弓って重いんですよね。
Gorian91:へー。弓自体はどれくらいの重さがあるんですか?
M.Sさん:弓自体の重さは1.5キロくらい、引く力が15キロくらい必要ですね。
Gorian91:引く力15キロってすごい大変そう[/char]
M.Sさん:僧帽筋がむきむきになりますよ!
やってる頃は、今より肩幅が広かったです。
病気の症状が出た今考えると、当時は考えられないことをやっていたと思います。
朝から晩まで部活、立ち仕事のバイトをして、夜10時頃に帰ってご飯食べる。
友達と電話して夜中1時過ぎに寝て、翌朝5時くらいに起きて出て行くみたいな。
普通の人でも大変な生活をしてました。
無理をしたことが、体にどう影響を与えるかはまだわかりませんけど。[/char]
病気を公表せずに内定するも、健康診断で発覚して内定取消しに
M.Sさん:大学生のときに、就職活動をしていて、内定が出てたんですけど病気のことは公表してなかったんですよ。
公表をせずに就職活動をしてて、公表しないままひょっこり内定が出てしまった。
健康診断をしていく段階でわかってしまって、内定取消しになりました。
学校とは内密に話をしていて、学校からの健康診断では病気のことを載せていなかったんです。
それで最終的にこういう形になってしまいました。
卒業が決まったあとで、単位もとっちゃって、大学にも残れないし、就職もできないし、ニートだと思って笑えない状況でした。
Gorian91:そうなんだ。
ぼくも病気のことは言わずに就職していましたね。
やっぱり隠しますよね。
M.Sさん:絶対無理ですよ。
言ってもわかってもらえないことはわかっているし、名前が名前なので、あれはそういう病気。
社会的な観念が定着しているので、なかなかわかってもらいにくいというのは感じますね。
Gorian91:会社としては健康な方を採用したいでしょうからね。
M.Sさん:特に民間企業だと、そういった危険分子は排除したいんでしょうね。
我々は手帳は持てないですし、グレーゾーンといいますか、そういった状況に置かれてしまっているのかなとは思いますね。
Gorian91:就職活動をしているときに、一番きつかったことは何ですか?
M.Sさん:階段に登れないのを、無理して登ったことくらいですかねw
Gorian91:同じだw
M.Sさん:営業も受けたことがあるんですけど、外回りがあるからちょっときついんじゃないかって言われて、じゃあやめますって断ったこともあります。
Gorian91:でも、最終的に就職が決まって本当に良かったですね。
障害者枠での採用なんでしょうか?
M.Sさん:いえ、違います。
名古屋港の自治体で、オフィスワークがほぼ全てなんです。
建物は新しくてバリアフリー。転勤もないところを見つけてきました。
最初は愛知県庁を受けようと思ったんですけど、転勤が多いし、建物が古くて。
こりゃ無理だなと思いました。
それで別のところを探して、受けて決まったという感じですね。
サポーターによるもしもの怪我予防と筋肉の話
Gorian91:(膝のサポーターを見て)ぼくサポーターをつけたことがないんですけど、サポーターをつけていると、どういう効果があるんですか?
M.Sさん:膝のお皿ってぐらぐらじゃないですか。あれって外れるんですよ。
Gorian91:えっ、外れるんですか。膝のお皿って。
M.Sさん:リハビリの先生いわく、外れるらしいんです。
Gorian91:確かに足を伸ばしたら、膝の皿がぐらぐら動きますよね。
M.Sさん:それ、あんまりやらない方が良いらしいです。
外れたら、戻そうとしたときに、膝の皿が割れることもあるんですって。
膝の周りの筋肉が少なくて、外れる可能性が高いので、本当気休めなんですけど、転んだときに膝の皿を割らないように固定してます。
サポーターはその対策ですね。
Gorian91:なるほど、それでサポーターをつけてるんですね。
ちなみに、どれくらいの頻度で転ぶんですか?
ぼくの場合でいうと、1日1回あるかないかくらいなんですけど。
M.Sさん:同じくらいです。
それは本当に気をつけてます。
膝のお皿をやったら結構やばいと思っているので。
Gorian91:骨折してしまうと、歩けなくなりますもんね。
M.Sさん:転ぶのは仕方がないと思うんですけど、どう防ぐかは考えるようにしてます。
石橋を叩いて渡る派なので、そういうの得意なんですけどねw
あとは冷さないことも大事だと思います。
Gorian91:わかります。
M.Sさん:筋肉が少ないので足は冷えます。
冷え性並みに冷えるので、体はなるべく身体を温めて、冷やさないようにしてますね。
Gorian91:ぼくも冷たい飲み物は極力飲まないようにしたりとかしてますね。
M.Sさん:それは正解だと思いますね。
あと、足首は一番冷えるので、レッグウォーマーなんかもつけたりします。
Gorian91:やってる対策が似てるなぁ。
M.Sさん:冷えは万病の元って言いますからね。
あとストレッチは、身体中入念に行った方が良いと思います。
Gorian91:毎日ストレッチしてます?
M.Sさん:毎日やってます。
お風呂あがりにテレビを見ながらやる習慣にしてます。
大学の授業でフィットネスをやってて、その先生から教わったんですけど、ストレッチって、筋肉を伸ばすじゃないですか。
伸ばすだけでもトレーニングになるんですよ。
筋肉は伸ばす、縮む。それができなくなってくるのが一番怖いから、縮めた分伸ばしましょうねと。
筋肉が少ない分、筋肉に負担がかかっていることに変わりはないので、その分伸ばしましょうと。
今体幹トレーニングとかストレッチの本が流行ってるじゃないですか。
あれを読んで、自分なりにアレンジして、やりすぎないように、できる範囲で調整しながらやってます。
先生からもある程度のストレッチとスクワットはやっときなさいと言われてます。
やっぱり、使わないことによって、筋肉は繊維化されてバラバラになってしまうんです。
でも、ある程度使うことによって、体に必要だと認識させる。
負荷をかけすぎるのは良くないですけど、伸ばしたり、そういう形で使うことはできると思うんです。
単に力を使って動かすだけが、筋肉ではない。
Gorian91:なるほど。
M.Sさん:股関節とか、太ももを伸ばしたり。
あとはアキレス腱を伸ばしたりもしてます。
一番怖いのは、使えなくなること。
筋肉がない分、最大限に使うためにはどうするか。
ないものはないので、逆にそれをどう利用するかしか考えてはいけないんじゃないかと思います。[/char]
まとめ
幼少期の頃の話から、症状が出てきた最近の出来事まで、幅広く話をきかせてもらいました。
同じ病気に向き合ってきただけあって、共感できることがめちゃめちゃ多くて、昔の自分のことを思い出しながら、ひたすらウンウンと頷いて聞いていました。
そんな中で、私と違ったことは、病気のことを理解する努力をされていて、自分にできるあらゆる対策をされていることでした。
病院に定期的に通って医者に生活のことを相談したり、医学の専門書で病気の仕組みを学んだり、最新の研究論文を読んだり。
私はこれまで、通院はおろか、病気のことを理解しようとする努力をしておらず、ストレッチをする、食生活をちょっと気をつけるくらいしか対策をしてませんでした。
でも、彼の話を聞いていると、自分自身の身体のため、まだまだできることはたくさんあると痛感しました。
彼に教えてもらった「病気がみえる」という本は、医者や看護師を目指す学生が読む専門書なんですが、病気の仕組みがイラストでわかりやすく解説されているので、全く知識のない人でも、病気の仕組みを理解できるようになっています。
病気のことを詳しく知りたいという方は、一度読んでみると良いかもしれません。
ベッカー型の筋ジストロフィーは、「病気がみえる(脳・神経/ vol.7)」に、6ページくらいで解説されています。
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こういう情報も、当事者ならではの情報ですよね。
当事者だからこそわかることって、たくさんあるんだろうなぁ。
今後もいろんな病気の方に話を聞いて、こういった情報を発信していきたいと思いました。
前田さん、話をきかせてくださってありがとうございました!!
あなたの病気、発信してみませんか?
引き続き、ご自身の病気を発信したい方を募集しています。
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- 希少難病の当事者の方、生活に支障が出る病気のある方
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